⑨【ママの卒業式】

へいさんちの場合を言おう。
緩和ケア入院から1週間で医師から連絡があった。まだ転院して別な治療法を試そうとするへいさんだった。
医師は淡々と言った。
「これから先、カーブを曲がるように容態は変わります。1週間単位で考えて下さい」
これは日本語とは思えず、お経を言っているのか、はたまた中国語か?とにかく理解不能。
「何を言ってるんですか?治療はどうですか」
「奥さんにその日がやってきます。それもそう遠くない日です」
へいさんは食い下がったが、答えは変わらなかった。
「来年長女は成人式、長男は高校卒業です。その日までなんとかなりませんか?」
医師は無言だった。しばらくして、
「宣告しても長く生きる方もいます。逆に早い方もいます。それは誰にもわかりません」
結果的に宣告から2週間で妻は亡くなった。宣告がなければきちんと別れが出来なかったかもしれない。

確かにカーブをふたつ曲がり、そこで旅立った。本人も変化には気づく。体調がいままでより著しく変化するから。この体調とは健康の時の体調ではない。目が見えないとか、呼吸困難とか、機能が明らかに破壊された状態。   
1回目のカーブを曲がった時、高熱が続いた。面会謝絶3日間。2回目のカーブでは何もなかった。ただ本人の不安は高まっていた。いま思うと何かが本人の中であったのだろう。そういう時に家族がいる事が必要。不安を共有する。

一番大事な事は、大切な家族と過ごした時間に感謝し、送り出してやる事。別れは旅立ち。それが自分の場合であっても。生きていた時間と関わってくれた人に感謝する事。素晴らしい人生を称えよう。

緩和ケアに入院する際の面談で医師がへんな事を言った。
「最後まで、耳は聞こえているんだよね」
危篤から16時間、声を掛け続けた。
と言うか叫び続けた。 
呼吸は二度止まった。
でも二度戻ってきた。 
できる事がそれしかなかった。
この病院のすごいところは、危篤からずっと家族だけにしてくれた事。
 手は尽くした。あとはナースセンターから静かに応援してくれている。
 iPhoneの音楽アプリからクラシックを選んで、いつもピアノで弾いていた曲を耳元で流した。苦しいのに穏やかな顔になった。

 子供たちにひとりずつ耳元でお別れを言う時間だと言った。あらかじめ別れの言葉は考えておけと言ってあったから、お別れはスムーズに出来た。   
【お別れ】は大事な行事だと思う。   
子供たちにとって、母の卒業式だから。
かすかにまぶたは動いた。
でも再び眼を開ける事なく妻は静かに旅立った。 
聞こえていたのだと思う。
子供たちが母に言う最期の瞬間だから。
辛かった3年。痛かった3年。  
ケンカばかりした3年は終わった。  

やっと穏やかな顔が帰ってきた。  
ナースを呼び、繋がったものすべてを外してもらった。
「うちに帰ろう」
身体はホカホカのまま。寝ているようだ。
悲しみはあとから自然とやってくる。 
それを静かに受け止めればいいだけだ。
そして残された家族は、本人の意思を受け継ぎ生きていく。受け継ぐ事で本人は永遠に自分の中に生きていくから。 

吉川中央病院緩和ケア病棟。
ここでよかった。いまでもそれは変わらない。  
私たちのクランクアップ。走馬灯のようにたくさんのシーンがまぶたの裏に走る。怒っている顔もあるが、笑っている顔のほうがはるかに多い。

史上最強の敵と闘ったママは、永遠に私たち家族の中で生き続ける。
本レポートを書く上で延べ100冊以上のがんに関わる本を読み、およそ50冊を取り寄せ三年に渡り学習、結果12冊から引用してたった50頁ほどのレポートにした。専門用語を使わず(一般人コミュニケーション)に端的(難しいと断念するから)にゴールを目指すためだ。

医師や専門家が書いたものでも、使えたのはわずかに12% 
それをまとめてひとつにした事で、100冊が1%になったわけだ。その確率はネット検索で引っかかる正しい情報へのアクセスに匹敵する。怪しい広告、売りたい広告、がん患者の弱みにつけ込んだ【甘い水】への誘導。99%が信用できない情報の山。

素人が、そんなゴミの山を掘り当てて正解にたどり着く事は10年掛かっても到底無理な話、その時に患者はこの世にいないだろう。
読んだから正しく理解できたことではない。医療現場は本にないイレギュラーがたくさんある。ただ基本としては本から学ぶものは大きいということ。それを身に着けた上での実践になる。
正しい知識と正しい判断。時間が掛かる作業だけれど、生きるか死ぬかの闘いを決してネット上の無料情報、まるで【宝くじ】の一枚に委ねてはならない。

がんに無知ではいけない。そして掴むのは藁ではなく、主治医の指示を正しく理解し患者(自分が患者なら、親族を味方にする)とともに行動する事。但し、それが間に合うかどうかは医師でも判断出来ない。
不安だからセカンドオピニオンもいいが、先に書いたように同業なら答えはほぼ同じ(厚生労働省データ)。求めるなら別な治療法(免疫や漢方)を持つ医師にする。ふたつのレーダーでがんを攻撃する方が効果的だからだ。
まだ正解はなく、より効果的かどうか、ひとつよりふたつ。生命力を維持したままの治療は一筋縄ではないからだ。がんが攻撃に強くなると逆に攻撃の反作用で体力は弱まる。持久戦を覚悟する。

三つはちょっと難しい。あなたも患者も何がいいのか迷ってしまうからだ。

【サバイバー】がんから生還した人に対する尊敬語。
このサバイバーを見つけ、話を聞く。体験にまさる情報はない。
サバイバーもがん初心者ではダメだ。再発からサバイブした人。辛抱強くがんと対峙した人が真の勝利者。ミクロな細胞60兆個を自分で強くした人だから。
がんだって10年掛かりで強くなる。私たちの半年や一年を費やしてもたかが5%~10%に過ぎない。がんにしめ殺される前にがんに立ち向かい、がんの弱味につけこんでやろう。何故ならがんは世界中70億人の敵。誰かが特効薬やがん撲滅療法を作るまで、耐えて耐えて耐えぬくしかない。一つ一つは小さい情報かもしれないが、山になればもの凄いエネルギーになる。医学なんていつだって偶然の発見から生まれている。その偶然を研究者に与える事ができる。

医学を患者パワーで援護する。そういうのはありじゃないか。私は妻の死を無駄にはしない。だからこの上をみんな歩いてくれ。ひとりでも多くの人が緩和ケア病棟からサバイバーになる。
目的はそれひとつだ。

【サバイバー】それは未来をつくるヒーローやヒロイン。私たちの願いだ。ネット上で使われている単語は【がんサバイバーシップ】、静岡がんセンターが簡単な質問には応えている。がんサバイバーシップは、日本医学共通の患者と医師の共同作業を意味する。

ここでやっとクランクアップ。すべては書き終えた。
飾りをすべて取り去った素材として言い残す事はない。
ただクランクアップは終わりではない。まだ50%、ただのライブ素材に過ぎない。存分に切り刻んで編集しCGIなどのイフェクトを入れ、映像に合わせたシーンごとの効果音、セリフをアフレコで合わせ、テーマソングを入れてリレコーディング、完成試写を経てようやく完パケ(完全パッケージ)になる。これらをアレンジし入れていくのはもちろん読まれた人たち。どんな風に仕上がるかが楽しみだ。

参考文献リスト
①【余命半年、僕はこうして乗り越えた! ~がんの外科医が一晩でがん患者になってからしたこと ブックマン社 著 西村元一
②【「がん」では死なない「がん患者」 栄養障害が寿命を縮める 】
光文社新書 著 東口高志
③【究極の癌治療―現代医学が認めない気功・Oリングテスト・抗癌漢方薬こそが、癌患者を救う】たま出版 著 横内正典
④【がん難民119番】救済・治療先進国アメリカに学ぶ
日本地域社会研究所 著 森山晃嗣
⑤【がんが自然に治る生き方】余命宣告から「劇的な寛解」に至った人たちが実践している9つのこと プレジデント社 著 ケリーターナー
⑥【がん研有明病院で今起きている漢方によるがん治療の奇蹟】
海竜社 著 星野惠津夫
⑦【ガンが消えていく食事 成功の秘訣 (食道・胃・大腸・肝臓・膵臓・腎臓・肺・前立腺ガンから悪性リンパ腫まで続々と治癒)
マキノ出版 著 済陽 高穂
⑧【がんが自然に消えていくセルフケア】毎日の生活で簡単にできる20の実践法 現代書林 著 野本篤志
⑨【がんを告知されたら読む本】―専門医が、がん患者にこれだけは言っておきたい“がん"の話 プレジデント社 著 谷川啓司
⑩【アメリカ最高の医師が教えるガンに勝つ極意】
サンマーク出版 著 ウィシンEキム
⑪【ガンは治るガンは治せる―生命の自然治癒力】花伝社 著 阿保徹
⑫【がん細胞を徐々に消していくために患者ができること】
総合科学出版 著 木下カオル