⑧【がんの学習最終章】

緩和ケアと聞いて、「最後まで諦めたくない」と耳を塞ぐのではなく、選択肢として必要なので書きますね。実は緩和ケアと言っても、兼業もいれば専業もいる。私たち家族が紹介されたのは開業医の兼業だった。これはダメだ。
 緩和ケア専業だと戻って来られないって不安もあり、家に近いからと選択した。兼業は普通の診療がある。
待たされる。
待てない痛みががんの特徴。
待たされてはたまらない。身体の不調は異常事態。いますぐなんとかして欲しい。それが緩和ケア。

専門医が新設の緩和ケア病院に行くと調べていたので、兼業医は捨てた。ただし、兼業医はたくさんの情報をくれた。【介護保険】を利用する事。完治しない病気、それは認定(各市町村に届け出)により介護保険が受けられる。
よく街で見かける老人の電動車椅子。買えば47万。
介護保険で借りれば1100円から200円。介護保険は、自宅での介護者用のベッドや食事、家族が患者と寄り添う為のノウハウを市役所を通じて手配可能。ケアマネジャーが派遣される。おかげで家は介護施設に変わることができた。
ウチが借りたのは無圧マットレスと電動ベッド、そして美味しくない流動食のおかずの缶詰の購入。
介護保険は社会保険。社会保険庁に申請し、病気で失業している患者の補助金が降りる。但しお役所だから、振り込まれるのは3カ月から半年待ち。
緩和ケア専門医に相談した。妻が緩和ケアで面談した際、最初に聞かれたのが痛みの度合い。一番痛かった経験との比較。妻は出産を7とし、いまは10と言った。出産も相当だったが、それを3割も上回る痛みは想像できない痛み。

痛み10は「意識がある限界だ」と医師は言った。
そして、「もうひとつも我慢しなくていい。緩和ケアは我慢させないのが仕事」と言った。ストレスをぶつけていい。痛みをぶつけていい。金の心配なんかしなくていい。酒タバコ以外なんでもあり。それが緩和ケア。
 緩和ケアは治療(がん治療)はしない。
進行がんを食い止めるのではなく、進行がんに対して患者と家族が悲鳴を出さないよう1日も長く管理してやる事。 【終末医療】とも言うが、痛みと闘う患者を感染症から守りながら、食事を摂らせながら、小腸の元気さを少しでも継続させる栄養管理を意味する。だから抗ガン剤は飲まない。

痛みは断続的ではなく継続している。 
だから常時モルヒネパッチを貼る。1mgから10mgまでのパッチは、痛みを緩和するが副作用として酔っている状態も招く。酔っていると食事は取りにくい。だから少し弱めにパッチして、少し痛い状態で三食を食べる。このパッチは触るだけで効果てきめん。だから家族でも触ったらすぐ手洗い。最大30mgまでパッチ可能。30mgというのは気を失う痛み。ウチは20mgまでやった。当初は通院で自宅療養、パッチを購入し自宅で貼っていた。麻薬だから薬局も取り寄せ。一枚1000円くらい。毎日3.4枚。

患者の意識はそのままだから、緩和ケア病棟(一般とは隔離され、親族以外面会謝絶)にいる自分と常に向き合う訳だ。本人の滅入り方は半端じゃない。 
「片道切符の部屋にいるのは私」を常時意識しながらの生活。
ひと月か半年か、その日が来る日を意識せずにはいられない。
家族として出来る事。何もない。何も出来ないからだ。
私は医師に訊ねた。
「生きてここから出したい」
医師は最善を尽くしていると言った。
「胃ろうや腸ろう、食事が出来ない場合はどうする?」
 と即座に次のテーマの質問にあった。
本人と相談し、胸に開けたポケット(非常時用に点滴が刺さる入り口)からの動脈点滴を希望した。

通常の食事が出来ない流動食や鼻からのチューブでは、栄養や必須ビタミンが完全補給出来ないので、点滴での栄養補給をするわけで毎日点滴している腕や脚は硬くなり、最後の指までもう無理になっていた(痛々しいのを超えた象のような肌になる)。

点滴は前に言った小腸からのペイズリー補給ではない。だから血管のアルブミンは痩せて、血管から栄養が漏れている。当然、身体中あちこちブクブクに水が溜まる。水抜き注射も痛い。痩せるから、背中は床ずれになる。
検査、注射、食事、診察、点滴、排便、食事、点滴、検査、ほぼ一時間ごとに看護師が世話をする。家族はただ見ているだけ。 
何故見ているだけか?
身体中痛くて触れないからだ。 
触ると激痛!何度も「出て行け!」と怒鳴られた。

精神的不安定な状態を緩和するためには、他の事を考えさせ、生きている意味や責任、やりがいを失せない事が大事だ。言うのは簡単だが、そんな知恵はなかなか浮かばない。
だから、普通に会話し普通にケンカする。普通に自分の食事を持ち込み、子供は普通にPCで宿題をやったりする。 
【家族の普通】を病室で行なう事だ。 
デザートを買い、舐めさせる。弁当を買い、味見させる。妻の楽しみは美味しいものを食べる事だったから。

緩和ケア病棟は専門医と専門看護師が24時間勤務。なんでもいつでも聞いていい。一時退院も状態さえ良ければ可能。一般病棟よりも相談はしやすい。ハッキリ言って、ジタバタしていい。 
いつなんどき、終わりの日が来るかもしれないから、医療チームも最大限の注意と敬意をはかっている。医療費は一般病棟と変わりない。個室だが大部屋料金。それは助かる。

 ここは病院だけど時間が穏やかに流れる。患者より多くの人が勤務し、誰ひとり焦りを見せない。 病院のファーストクラスのようだ。ただこの部屋は退院する予定は不明なので空き部屋である事は少なく、一般病棟からの空き待ちが普通。出来れば緩和ケアがある大学病院や大きな病院が良いと思う。がん専門医との情報連絡が院内で可能だから。緩和ケアにきたから終わりではなく、がん専門医もいつ新しい療法が現れるかもしれないので、月一くらいで診察してくれる。

終末って言葉は聞きたくないが、進行がんの最期は、どこかの内臓が停止する機能不全になり機能停止により、生命が絶たれる。機能不全を人工的にバイパスする事も出来る。生命維持装置の装着。
それは【植物人間】、本人がしっかり意識あるうちに選択するかしないかの確認はある。
ウチは選択しなかった。本人の強い意志で。 

緩和ケア退院のほとんどは裏口からの退院となる。最善を尽くした医師や看護師には敬意を払い退院する。彼らがいてくれたから、いまの退院はあり、家族はこの緩和ケアのおかげで最期の時間を有効に使えた訳だから。

 最期は痛くない。痛みではなく機能不全。そして意識レベルが下がり危篤、死に至る。その瞬間が来るのは誰もわからないが、医師は大体想定している。